サイボウズ『チームのことだけ、考えた。』を読む −100人100通りの働き方の裏側−

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100人100通りの働き方

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青野慶久『チームのことだけ、考えた。サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか

気になるタイトルである。

そして中を読むと言葉と施策に一貫性がある。これは見せ方がうまいのではない。理念があるのだ。

グループウェアサービスの『サイボウズ』は、育休が6年とれる、副業OK、給与テーブルをなくす、など特徴的な人事制度で有名だ。社長の青野慶久さん自身イクメンとして有名だし、人生で体現されているように見える。

この本は、創業から現在までの単なる起業物語ではなく、その名のとおり組織・チームへの取り組みの実践とその思想が書かれたものだった。

本書の第二章と第三章から、共通の理想とはどういうことか、それを実現する人事の仕組みを考えてみよう(アカツキ中途採用チームリーダーの高橋由佳さんが人事勉強会でまとめた資料を参考にしている)。


共通の理想

青野さんは、良いチームをつくるのに最も必要なのは「共通の理想」だという企業のビジョンそしてミッションのことだ)。

そこには「人間は理想に向かって行動する」という考えがベースにある。理想とは、言い換えれば「夢」「目的」「目標」「ビジョン」、そして「欲」である。現実に満足できず、理想を持ち、実現したいという欲望があるから人は課題に取り組むのだ。

この「共通の理想」に向けてチームがワークすることが、サイボウズの目指す「チームワーク」だ。多様な人材をチームで受け入れることと、チーム全体で共通の理想を持つことは矛盾しない。むしろ、共有の理想があるからこそ、多様な人たちを受け入れ、1つの方向に束ねていくことができる

チームワークのための多様性マネジメント

チームワークを向上させるために、はじめは「より多くの人(多くの社員と多様性)」「より成長(スキルの向上)」「より長く働く(長期雇用)」というスローガンを策定した。しかし実践していくと「人数の多さ」は重要ではないことがわかり、「成長」と「長く働く」にも違和感がでてきた。最終的に残ったのは「多様性」だった。

メンバーを大きな塊として考えず、一人一人がすべて違う個性として扱う 。彼らの個性を制限している障壁を取り除いていった。一律的な規則で働かせるのをやめて、以前は受け入れられなかった人を採用し、活躍の場所を作れるようにして、個性を受け入れる力をつけていったのだ。

多様性を認めるからといって何をやってもよいというわけではない。多様性を実現するには「共通の理想」に共感していることが必須条件で、共感の度合いによって、サイボウズとの距離も変わる。それぞれの距離感で接してもらえれば何の問題もない。距離に応じたマネジメントをしなければならない、つまり同じ働き方を強要しないことが重要だ。

成果主義と360度評価の失敗

サイボウズでは、成果主義の人事制度を作成したことがある。コンセプトは「アップorアウト」。失われかけたハングリー精神を復活させるための導入だった。目標の達成度合いで点数化した。

そしてひどいことになった。人の手伝いをしなくなる。低い目標を立てる。ボーナスの差が生まれ、売上の立てられない新規事業のメンバーが続々と辞めていった離職率は20%前後になった。

様々な視点を取りこめば評価の公平感は高まると思って360度評価も行ったが、誰も自信を持って説明できない評価になってしまった。

試行錯誤の結果、評価による公平性は目指さないことにした。多様性のある組織においては、社員同士を比較するのは困難だったのだ

給与は「市場性」を重視しつつ、本人に与えられる報酬の最大化を目指すこととした。

100人100通りの人事制度。理想的で魅力的な響きだが、その背景には苦い失敗とそれを克服するために築かれきた哲学があったのだ。


100人いれば100通りの裏側

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2017年12月13日、組織文化についてJAM社主催のトークセッションに登壇させていただき、サイボウズの人事 青野誠さんと、「100人いれば100通りの働き方」の裏側についてディスカッションする機会に恵まれた。

そこには多様な働き方を認めることで起きる複雑な人事オペレーションと、質問責任を求めるから起きるドロドロとした葛藤があった。

青野さんから感じたのは、それでも受け止める器と実行する姿勢だった。やはり意志を決めて一貫し、やりきることが強い組織文化を作るのだ。人事として背筋が伸びる思いだった。

なぜサイボウズには、それができたのか?

青野さんは「10年かかりました」と笑顔でおっしゃっていたが、生半可なことではなかったはずだ。なぜそれができたのか?

その背景には、一様なやり方で失敗したからこそ多様に振りきったという歴史があるのだそうだ。失敗から学び経営が意思を決めたこと、その意思を受けて人事が本気で取り組み続けたことに勝因があるのだろう。

さらにこの取り組みは、はじめは事業的な戦略を見越してやっていたわけではなかったそうだ。事業貢献が明確に歌えないならば、なおのこと推進は大変だったことだろう。しかし今では結果的にプロモーションを含めて事業に貢献できている。信じてやりきることは、やはり力なのだ。

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JAM社にて(左からJAM水谷さん、サイボウズ青野さん、私、JAM菊池さん)

会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。


昨日、青野慶久『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』という本が発売された。

「私たちが楽しく働けないのは、会社の仕組みのせいなのではないか。会社がモンスターのように私たちを支配してしまっているからではないか」(「はじめに」より)

おっと。人事の仕組みを100通りでは飽き足らず、今度は人を不幸にするモンスターと見なすのですか。

さあ、読んでみよう。とても楽しみだ。そして、この裏側で人事はどう戦っているのだろうか。とても知りたい。

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