『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』を読む -日本企業では?-

ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則

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偉大な企業づくりの教科書

ビジョナリーカンパニー2は「普通の企業・良い企業」がどうやって「偉大な会社」になるのか、時代や業界を超えて共通する『飛躍の法則』をまとめた教科書だ。

アカツキに参画して驚いたのは、みんなが本を大量に読んでいることである。7つの習慣やアドラーやドラッカーなどが話の中に頻出する。

中でもこのジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則』は社内で共通言語になっていて、自社らしさ・風土を考えるにあたり、外せない一冊だ。

「俺たちはGoodじゃなくてGreatな企業を目指してるから・・・」

「創業当時にゲームにフォーカスした理由は、ハリネズミの概念で言うと・・・」

「ここは現実を直視しないと。ストックデールの逆説ですよ」

「その採用判断はまずい。誰をバスに乗せるべきかじっくり考えましょう」

こんな会話が日常的に社内に飛び交っている。

アカツキ人事企画室WIZの小能(おのう)さんが、新メンバーに向けてビジョナリーカンパニー2の勉強会をしてくれた。ここではその内容をベースに置きつつ、さらに一歩踏み込んで日本企業が飛躍するための方法を考えてみたい。

ビジョナリーカンパニーとは

ビジョナリーカンパニーとは「業界や時代を超えて生存する、偉大な(GREATな)企業」だ。

GREATな企業は、瞬間的にサービスが拡大するだけではダメだ。それでは普通のGOODな企業である。

ビジョンがあり、未来志向、先見的な、業界で卓越した、同業他社のあいだで広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与えつづけている、我々の生活になくてはならない企業。そして、最高経営責任者(CEO)が世代交代している、当初の主力商品のライフサイクルを超えて繁栄していることが、重要な要件だとコリンズはいう。

(「ビジョン」の指す意味については『ミッションは使命。変わらない「一貫性」が信頼を生む』を参照)

日本版ビジョナリーカンパニーと呼ばれる野中郁次郎『日本の持続的成長企業』では、50年以上歴史があり、30年以上にわたって持続的に株価が概ね上昇トレンドにある日本企業の特徴を分析しているが、花王、キヤノン、デンソーなどを事例として取り上げている。

飛躍の法則

コリンズたちは調査の末、偉大な企業に100%共通し、良い企業には30%共通するモデルを見つけた。それは、明暗を分ける大きな意思決定や劇的な改革ではなく、準備期間もあり、地道な動きだが、後半は大きな車輪が回り出す「弾み車」のモデルである(下図参照)。そのポイントを5つ見ていこう。

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弾み車のモデル(ビジョナリー・カンパニー2より)

❶第五水準のリーダーシップ

謙虚と意思

飛躍を指導したリーダーは強烈な個性を持つ派手なリーダーではなく、むしろ内気で、もの静かで恥ずかしがりであった。謙虚さと意思の強さを持ち、そして野心は個人ではなく会社のために向けられていることをコリンズは指摘している。

その姿は本質的な仕事の価値に没頭するプロフェッショナルの特徴に当て嵌まる(アブラハム・マズローのZ理論の体現者)。また職務への献身というプロフェッショナリズムの精神的側面が強調されている。

窓と鏡

そして、成功した時は窓の外を見て成功の要因を見つけ出し、うまくいかないときは鏡に映る自分に責任があると考える「窓と鏡」の思考様式を持っているそうだ。

自分へのフィードバックを受け止めて内省する姿勢、それはたしかにリーダーシップの原理原則だ(『リーダーシップとは何か?それは伸ばせるものなのか?』参照)。

❷最初に人を選び、その後に目標を選ぶ

偉大な企業は、まずはじめに新しいビジョンと戦略を描いたわけではないこともわかった。

偉大な企業は、事ではなく、人からはじまるのだ。

最初に適切な人をバスを乗せ(採用)、不適切な人をバスから降ろし(代謝)、適切な人がふさわしい席に座って(配属)からどこに向かうかを決めている。

採用も配置も、冷酷なのではなく、超厳格である。ちょっとでも疑問があったら採用しない、専門スキルではなく、性格や基礎能力を重視している、とコリンズはいう。

適切な人を採用するのが当たり前、という文化が偉大な企業をつくっているのだ。日本のリクルート社も創業期から「自分より優秀な人間を採用する」文化をつくり、人材輩出企業として成長してきた(「自分より優秀な人間を採用する」組織文化を作るには?』参照)。

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❸厳しい現実を直視する

3つ目のポイントはストックデールの逆説だ。ストックデール将軍は、ベトナム戦争での捕虜収容所の中で8年を生き抜いた。厳しい現実を想定し、でも最後には必ず勝つと確信した捕虜たちは生き残り、逆に楽観主義者から脱落していった。

どんな困難にも必ず勝てると確信する」こと、そして「極めて厳しい現実を直視する」ことが偉大な企業に共通していたとコリンズはいう。

対立する両極を葛藤とともに保持すること

前出の野中郁次郎『日本の持続的成長企業』によれば、持続的に成長する企業は、①社会的使命を重視しながら経済的価値も重視、②共同体意識がありながら健全な競争も共存、③長期志向でありながら現実も直視、といった対立する価値基準を併せ持っていることがわかっている(『世のため人のために頑張る企業が、日本では持続的に成長している』参照)。

❹ハリネズミの概念

4つ目は、ハリネズミの概念だ。賢くて俊敏で様々な手法を持って、あれこれ考えては仕掛けるきつねは、冷静にたった一つの要(丸まってやり過ごす)を実行するハリネズミに勝てない。

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経営においては下図の「三つの円」が重なる一点だけを知っていれば良い。今の事業が世界一になれるフィールドとは限らない。偉大な企業は、ここの見定めにとても多くの時間を費やしていることがわかった。

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針鼠の概念と三つの円(ビジョナリー・カンパニー2より)

(個人のキャリアに当てはめて考えると、エドガーシャインのWILL・CAN・MASTの構図になる。『キャリアの問いは、何をやりたいか、何ができるか、何をなすべきか、そしてどうやって生き残るか』参照)

❺規律の文化

5つ目は規律の文化だ。これがあると階層組織は不要になる。規律ある行動がとられていれば、過剰な管理は不要になる。自ら規律を守り、規律ある行動をとり、三つの円が重なる部分を熱狂的に重視する人たちが集まる企業文化が鍵だ。管理とは規律の欠如と無能力を補うものでしかない、とコリンズはいう。

自律した組織にはどうすればなれるだろうか。古典ホーソン実験から最近のソフトウェア開発スクラムまで、考え方をまとめているのでご覧いただきたい。

弾み車はゆっくりと回り出す

劇的な転換はゆっくりと進む。革命とは、重い車輪を回すことだ。準備期間もあり、地道な動きだが、ついには大きな車輪が回り出し、勢いが止まらなくなる。これが企業がGREATになるジム・コリンズの『飛躍の法則』だ。

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日本企業との違い -社会の公器-

さて、日本企業との違いを考えてみよう。日本版ビジョナリーカンパニー『日本の持続的成長企業』の主張は、同じようで少しちがう。「人を持続的に生かせる企業、世のため人のために頑張る企業が持続成長する」のいう当たり前のことにこそ、企業のエクセレンスの根源があると野中郁次郎はいっている。

だれをバスに載せるか、そしてどう自律的な組織を作るか、が重要なことまでは同じである。しかし「世のため、人のため」とくるあたりが異なる。

近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」や、キッコーマンの「地域社会にとって存在意義のある会社」、住友の「自利利他公私一如」のように、伝統ある日本企業は「会社は社会の中で生かされている」という家訓や企業理念を持っているのだ。それは「社会の公器」という認識である。

それは一体感、関係性を重視する日本の特徴で、仏教の影響ではないかと私は考えている。

日本人は、つながりたいのだ。

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