青山拓央『時間と自由意志』を読む

自由意志について論じた哲学書

自由とは何か

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こういう白くてシンプルで硬い本が好きだ。『時間と自由意志:自由は存在するか』は以前ご紹介した『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』の青山拓央が「自由意志」について論じた哲学書である。とても難解だが面白かった。とりわけ下のような複雑な概念をどうにか形にした図は大好物だ。

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これは自由について図式化したものだが、3つの円とそれらを内包する三角形からなる。3つの円、自由意志、両立的自由、不自由は、自由の「現われ」なのだそうだ。それぞれの円の置かれた位置、三角形の頂点は現われの主要な源泉の位置である。

この3つを同時に満たしたものが自由というわけではない。「われわれが「自由」と呼ぶものは各種の成分のアマルガム(合金)」であり、「われわれが自由であるとは、あの三角形全体の内部を動き続けること」だと言う。

 

1.自由意志

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自由意志とは「何をするのかを決める自由」である。

意志が行為選択の起点であるという「起点性」と、他の選択も可能であったという「他行為可能性」がその前提となる。

しかし、可能性を選択する起点というものは本当にあるのだろうか。この時点で私自身が決断した、と私が(一人称の観点で)起点を定めることは困難だ。「分岐問題」と呼ばれるこの問題が当書では大きな位置を占めている。

上図で自由意志が二人称に位置しているのはそのためだ。不可視である他者の中に自由意志を見ることで自由を感じる(自由の他者性)。

我々は、なぜ他者に怒るのか。雪や金魚や文房具に対しては抱かない怒りをなぜ他者に抱くのか。それは他者の内面に(本当はないかも知れない)自由意志があると信じられる(認知的エラーが起きている)からだ。

自分自身を、他者にとっての他者と見なすことによって自分を自由と見なせる、という構図である(私の他者化)。

自由を求め葛藤し続けた尾崎豊はこう歌っている。

本当の自分の姿を失いそうなとき、君の中の僕だけがぼやけて見える(尾崎豊「永遠の胸」)

自由意志は他者の中にこそある。しかしそれはぼやけているのだ。

 

2.両立的自由

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両立的自由とは「したいことを妨げられずにする自由」である。森博嗣が言う「剣豪が刀を操るような自在」とはこれのことだ。

もし、この世界が何らかの意味で決定論的(何が起こるかすべて決まっている)であるなら、そのことによって自由意志は損なわれる。これに対し、この「したいことを妨害されずにする自由」は、決定論的世界においても成立する(決定論と両立するためこの自由を両立的自由という)。

両立的自由は、意図・欲求・計画等からそれらに応じた行為が実現されることによって果たされる。たとえそれが決定論的な単線であったとしても「物語」になっていることが肝要である。

こうした私の(一人称的)両立的自由の体験は、個々を見ればどれも平凡であり、自由の核を担うものとは言えない。せいぜい私の「自由感」を支えるものである。しかし平凡な要素があるからこそ、見えない他者の中にも同様の自由感を想像できるのだ(他者の私化)。

 

3.不自由

IMG_5384「何から自由であるのか」を示すことなく自由を理解することは難しい。「あるものから不自由ではないこと」は自由の一形態である。

不自由は、自由意志か両立的自由を脅かすものだ。そしてまた、自由意志と両立的自由の側も、不自由に脅かされることによって、つまり不自由の再否定として「自由」の呼称を堅固なものにしていく。

自由とは、各所の成分が不均一なアマルガムの総体であって、自由の成分比率として正しいものはない。そして、その総体としての自由は、不自由と相反するものでなくーーむしろ不自由はその一部であるーー無自由と相反するものであり、世界が無自由であることは、アマルガム全体の無化を意味する。

自由である、とは三角形全体の内部を動き続けることだ。不自由を仮の出発点とするならば、反時計回りでは他者の私化つまり両立的自由の二人称化が促され、時計回りでは私の他者化つまり自由意志の一人称化が促されている。

 

意志を持つこと

この本を読んで、自由意志とは他者の中に朧げにしか存在しないものだと書いてあることに、まず驚いた。

リクルート社にいたころ、内省の機会が多く用意されており、私はことあるごとに自分を振り返ってばかりいた(それは苦しくも楽しかった)。当時の自分が書いたワークシートを引っ張り出して眺めるとこう書いてある。

「意志ある仕事がしたい」「意志を持って動けたのが良かった」「意志の感じられない方針は最悪だ」「意志のない判断に振り回されるのは辛い」「意志ある仲間との協働こそが喜び」

・・・意志意志意志意志。
客観的に見れば面白いくらい意志に拘っている。座右の銘は「指し示す」だ。

「自由意志」の存在を、ここまで強く自分に言い聞かせなければならなかった理由が、当書のおかげで少しわかった気がする。それは一人称の中で立ち止まっていては保ち続けられないものだったのだ。

そして、意志を持つことの大切さを私に教えてくれたのは、やはり師匠という他者だった。

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