部下の目に映った姿こそが『影響力』としてのリーダーシップの実像そのもの

リーダーシップ行動

IMG_5187前回はリーダーの育成について見てきたが、今回は大沢武志『心理学的経営―個をあるがままに生かす』を元にリーダーシップについて考えたい。

 

リーダーシップとは何か?

リーダーとはどこに行くかを「指し示す」役割のことだが、リーダーシップとは「影響力」のことだ。リーダーは指し示して前に進む。後ろを振り向いたときに、皆がついてきてくれていること、それが影響力である。

 

リーダーシップ行動

リーダーシップの研究は、オハイオ研究やPM理論などのリーダーシップ二大機能論が有名だが、大沢武志はそれらを元に日本での実証研究を進め、リーダーシップの「行動」に見られる四因子を見出した。

  • 要望性
    指示を与え、生産性を高める事を指向した行動
  • 共感性
    部下を受容し、思いやりを支持を与える行動
  • 通意性
    仕事を進める上で必要な情報を十分に提供する行動
  • 信頼性
    部下から見て、能力的に人間的に信任に値するか否か。リーダーシップの基盤を司る行動

面白いことにこの四因子は、山本五十六元帥の言葉「やってみせ(信頼性)、言って聞かせて(通意性)、させてみせ、(要望性)、褒めてやらねば(共感性)人は動かじ」と一致する(私はこれを知ったとき「やはりリーダーシップ行動とは普遍的なのだ!」とひどく興奮してしまった)。

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各研究・理論におけるリーダーシップ行動因子の対応表(『心理的経営』を元に作成)

 

リーダーシップ行動サーベイ

リーダーシップ行動の四因子に基づいて、実際にリーダーの「行動」を測定し、リーダーシップ開発についての手がかりを得ることができる(CCLのいうアセスメントである)。

本人、上司、部下、同僚に質問紙を配り、その人がリーダーシップ行動をとっているかどうかを答えてもらうのだ。

一番重要なのは他者認知(部下をはじめとした他者の回答)だ。自分の行動は部下の目にどう映っているか。部下の回答結果は、対人影響力としてのリーダーシップを直接受け止めている部下の「心理的事実」であり、最も重視すべき事実である。

リーダーシップ行動サーベイの一般的傾向として、自己認知の得点は部下認知の得点を上回る。多くの場合、あなたが思っているほど影響力(リーダーシップ)はない。厳しいがそれが現実である。

 

業績とリーダーシップ行動

リーダーのリーダーシップの優劣は、その集団の業績や風土、あるいはメンバーの意欲や態度メンバーのモラル等に重大な影響を及ぼす。

A社において、業績の上昇群と下降群とサーベイ結果を比較したところ、上司の自己認知と業績には関連がみられなかったが、部下認知と業績に積極的な関連が見出された(上司に対する部下の得点が高い部署は、業績も高い)。

つまり、自己評価は実際の影響力と必ずしも関係がないが、部下評価は影響力としてのリーダーシップの実像そのものと理解できる。

 

リクルートのLDP

1971年、リクルート社は管理職のリーダーシップ行動の変容を目的とした心理学的訓練プログラムLDPを開発した。LDPでは、前述のサーベイデータと、それを巡った数日間のグループ体験を通じて他者認知を捉えることで、自己変革の動機づけを行う。

現代では多面観察は一般的になっているが、1971年当時は「部下が上司を評価する」なんてことはあり得ない時代だったため、大きなインパクトを持って多くの企業に導入された。いわゆるパイオニアである。

またリクルート自体でもLDPは実施され続け、創業者の江副浩正はLDPこそがリクルートの強さの源泉であるとまで言っている。自身のサーベイ結果を社員に開示し、自分はここが弱くて課題なのだと赤裸々に話したという。

 

Googleのプロジェクト オキシジェン

興味深いことに、Googleが2008年から始めたマネジャーに関する調査と育成の取り組みプロジェクト オキシジェンは、1971年のリクルートLDPとほとんど同じだ。

マネジャーの部下からの評価(満足度)を分析した結果、以下の結果がわかったという(『グーグルは組織をデータで変える DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文』より)

高評価を得たマネジャーは他のマネジャーより部下の離職率が低かった。また、社員の定着率はその社員の職位や成果、在職年数、昇進の有無よりも、マネジャーの資質により強く相関していた。

そして、良いマネジャーの「行動」を特定し、そのサーベイ結果を本人にフィードバックしている。その行動とはこの8つだという。大沢さんの四因子や山本五十六の言葉と比較して全く違和感はない。

  1. 良いコーチであること
  2. ある程度部下に任せ、細かい管理をしないこと
  3. 部下の成功と幸せを気にかけていることを態度で示すこと
  4. 生産的で成果志向であること
  5. コミュニケーションを良くとり、チームの意見に耳を傾けること
  6. 部下のキャリア開発を支援すること
  7. チームのために明確なビジョンと戦略を持っていること
  8. 部下にアドバイスできる重要な技術的スキルを持っていること

違う時代、違う国、違う業界で、山本五十六もPM理論もリクルートもGoogleも、リーダーシップの本質は同じだと捉え、同じことを言っているのだ(ゾクゾクするではないか)。

 

次回はリーダーの性格特性と指向について見ていこう。リーダーに向いた性格というのはあるのだろうか?

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テーマ6.人材開発

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