異動
今回は、リソースフローの真ん中、異動について考えたい。
異動とは、人材を今の仕事や部署から変更することだ。せっかく馴染んだ仕事や仲間たちから切り離されるのは苦痛なことも多いはずだ。なぜ、わざわざそんなことを企業は行うのだろうか。(上のかえる君は本当に可哀相だ)
異動の目的は適材適所
目的は「適材適所」である。
企業からすれば、経営戦略を実現する組織体制の変更といった中長期から、特定業務の人員不足や過剰の調整という目の前まで、仕事をうまく行ってもらうために人材を適正に配置する必要がある。
しかし、異動は組織の都合だけで行われているのではない。社員の能力、キャリア、周囲とのつながり、など、個人の状況をより良くしていく人材開発のためでもある。
この個と組織、2つの目的を同時に実現しなければならないところに、異動の難しさがある。
異動のデザイン
異動を納得し、新たな職場で活躍できるかどうかは、結局は個と組織の信頼関係による。終身雇用、年功序列の時代は会社主導の異動を受け入れて当たり前だったが、これからは信頼を積み重ねる異動のデザインが必要となってくるだろう。
企業は以下の4点を考える。
- 仕事の要件・難易度
- 本人の能力・適性・価値観・可能性・意志
- 本人の意思と企業の期待とのマッチング
- 異動先での人の組み合わせ
特に2についてはアセスメントや自己申告などの手法、そして日々の評価による把握必要となる。
異動が決定した際は、異動の理由と企業からの期待をしっかり伝えることが重要である。この瞬間のコミュニケーションによって、信頼関係のもとで前向きに新しい仕事に取り組めるか、企業に不信を持って気持ちが離れて行くかが大きく左右される。
お互いにこれまで積み重ねてきた信頼が問われるシーンであり、ここを乗り越えると信頼関係はさらに深くなるだろう。
異動の主体者は誰か
異動の主体者が誰であるかは、非常に重要なテーマだ。実際には、現在の仕事の在任期間や上司の見解、本人の意向を踏まえて、部門内の異動であれば部門長が決定し、部門を超えるときは人事が決定することが多いだろう。
日本労働研究機構の調査によれば日本企業においては本人の意向が加味されるウェイトはまだ少ない。
自己申告制度などの本人の意志を表明できる仕組みは徐々に導入されているが、前提として個人がどうありたいかを自覚しており、現実的なキャリアプランへと転換できている必要がある。しかしそんな人材はまだ多くない。また、企業も個人への期待を明確に伝えていく必要があるが、職能資格の企業が多く期待は曖昧になりがちだ。
個人が自律したプロフェッショナルとしてキャリアを形成していく、自分を高められる環境になるは、企業も個人もまだ乗り越えなければならない壁がありそうだ。
次回はローテーションについて考えていきたい。

参考文献
- 釘崎広光『トータル人事システム』
- 守島基博『人材マネジメント入門 日経文庫B76
』
- 根本孝・金雅美『人事管理(ヒューマンリソース)―人事制度とキャリア・デザイン (マネジメント基本全集)
』
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