河合隼雄を読む -人事コンサルの切断とこころ-

河合隼雄を読む

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人の心などわかるはずがない

河合隼雄は、ユング心理学を日本に持ち込んだ心理学者だ。私がはじめて読んだのは小学生のころ、母の本棚にあった『こころの処方箋 』である。

一章のタイトルが「人の心などわかるはずがない」である。ここでまずズガンとやられた。

一般の人は人の心がすぐわかると思っておられるが、人の心がいかにわからないかということを、確信を持って知っているところが、専門家の特徴である

読んだことのない方は、目次だけでも見てみて欲しい。「100%正しい忠告はまず役に立たない」「己を殺して他人を殺す」「マジメも休み休み言え」など心理についての格言が並んでいて面白い。

そう、彼の本はわかりやすく面白いのだ。小学生の私が当時どこまで理解できていたのかわからないけれど、子どもなりに「そうなのかー」と楽しんで読んでいた(いま読み返すと、恐ろしく深く本質的なことが書いてあるのだが)。

そして20年以上、河合隼雄のことは忘れていた。

 

切断する仕事と乾く心

32歳の頃、IT企業の人事マネジャーからリクルートマネジメントソリューションズの人事コンサルタントに転身した。

人事としての知識は持っているつもりだったが、先輩コンサルタントたちと話しているうちに、自分が本当に狭い一つのパターンしか知らないことに気付かされ、大海に放り出された蛙の気持ちになったものだ。

自信のない中で売上という目標を達成しなければならないプレッシャー、さらに何よりも自分のクライアント(顧客)をはじめて持ち、第三者として顧客に関わり価値を発揮することの難しさに直面していた。

人事コンサルティングというのは人と組織という有機的なものをフレームで切断する仕事であった。例えば等級とは頑張っている人たちを切り分け序列(ランキング)する無慈悲なものだ。

何とも言えない心が乾く感じがあり、仕事が前に進めば進むほど苦しさは募っていった。

自分は何をすることが、クライアントにとっての価値なのか?本当にこれで良いのか?

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河合隼雄との再会

そんなとき、職場である大阪リクルートオフィスU7から東梅田駅前への帰り道にある梅田駅前ビルの本屋で、河合隼雄の心理療法コレクションの1巻『ユング心理学入門』に出会う。

河合隼雄か・・・。そういえば、彼も心理療法家としてクライアントに向き合い続けてきた人だ。筒井康隆の書評「本の森の狩人」にはこう書いてある。

心理療法の治療なんて、人間わざでできるものではないな。そう思わせる本が河合隼雄「心理療法序説」(岩波書店)である。かといって人間相手だから人間による治療でなければならないという二律背反。この本はその二律背反ばかりである。

正か誤かとすぐどちらかに見極めたがる人間が多い中でこうした立場に身を置くというのは大変なことだ。

いま、自分に必要なのはこの世界観なのではないか。

心理療法コレクション全6巻は、それから3ヶ月毎に刊行されるという。楽しみにして本屋に通う日々が続いた。

その内容は乾いた心に染み込むようだった。5巻の『ユング心理学と仏教』は読み込みすぎて文庫の真ん中から本が割れてしまったほどだ。

西洋では、最初になすべきことは、他と分離した自我を確立することです。このような自我が所を得た後に、他との関係をはかろうとします。これに対して、日本人はまず一体感を確立し、その一体感を基にしながら、他との分離や区別をはかります

コンサルタントのフレームワークは、まず切断するところからはじまる。そこが乾きの原因だった。一体感のない中で突然分離することは、日本人には苦しいのだ(そして西洋の中にもその苦しさはあるはずだ)。

日本人の意識は、本人が自覚しているかいないかに関わらず、仏教に大きく影響されている、と河合隼雄は言う(ここから私の仏教への関心が芽生えた)。

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十牛図 悟りのプロセスを示している?

 

そして心理学的経営へ

河合隼雄のいうとおり、バラバラだった物事は星座(コンステレーション)のように繋がっていく。

自社リクルートマネジメントソリューションズの創業者である大沢武志が、ユング心理学のタイプ論をベースに適性検査を開発したことや、その内容について機関紙Messageで河合隼雄と対談していること、さらには『心理学的経営―個をあるがままに生かす』という奇跡のような書を著していることを知るには、ここからさらに3年の歳月を要する。

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