必要な人材の定着施策
これまでテーマ5.リソースフローでは雇用調整や終身雇用の限界について確認してきたが、今回は、やめてほしくない人材の定着について見ていこう。
一般的な定着施策
須田敏子『HRMマスターコース―人事スペシャリスト養成講座』では、人材を「組織への影響度」つまりその人が退職した場合、組織はどの程度影響を受けるか組織のその人材に対する必要度、と「退職の可能性」の2つの軸で分析し、定着施策を提示している。その中で、組織への影響度が高く、退職の可能性も高い人材(危険ゾーン)への定着施策を見てみよう。
賃金が労働市場における価値(市場賃金)以下であれば昇給を検討する。市場賃金以上で あればそれ以上を支払う必要があるか、企業に支払う能力があるかを判断する。
賃金以外のストックオプションやトレーニング費用のサポート、福利厚生、フレキシブル な労働時間や労働形態を提供できるなども本人の希望を聞いて検討する。
本人の望むキャリアの方向性が企業内で実現できるかキャリアプランを考える。
まあ、普通はそのとおりかもしれない。しかしこれからのプロフェッショナルたちはどうだろう。これで本当に引き止められるのだろうか。
知識労働者の定着施策
根本孝・金雅美『人事管理(ヒューマンリソース)―人事制度とキャリア・デザイン』から知識労働者の定着施策を見てみよう。
知識労働者を誘引・定着させるための工夫や施策が必要である。組織の「知」は、人材の流出を通して外部に持ち運ばれること、労働市場で高い価値があるため企業への忠誠心が一般社員よりも低いためである。
昇進や賃金以上に、知的生産活動や刺激的な組織環境が重要なケースが多い為、下記の工夫 があげられる。
- 知的資本の価値を計る指標の設定
- 昇進や賃金以外の報酬システムの構築(研修の場など)
- 知的労働者だけのチーム形成
知的労働者を企業の昇進および賃金体系とは別処遇する「専門職制度」は難しい点も多い。仕事給・属人給の比率、職能給と職務給の比率などである。自己申告制度など個人で自分の適性を判断できる新しい報酬システムも必要となる。
必要なのは、やはり「本質・没頭・卓越のための信頼・鼓舞・支援」なのだ。
私がリクルートマネジメントソリューションズにいた頃、周囲にはレベルの高いプロフェッショナルたちがいた。あるベテランコンサルの方に、なぜ独立しないのかを聞いたところ「知を高め合える仲間がいる」から組織に所属している、とおっしゃっていた。仕事自体の内的報酬を自ら生み出せる人たちは、それを磨ける環境にこそ価値を置いているのだろう。
次回以降は、リソースフローの入り口「採用」について考えていきたい。

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