行動を見る評価手法 その歴史と限界
前回は「評価者は「主観」をピカピカに磨かねばならない」として行動の評価におけるポイントを述べた。今回はその手法について書きたい。色んな測り方がある。
能力評価
日本では職能資格等級が長年使われてきた。その資格に見合った職能(職務遂行能力)を持っているかどうかを評価するのが、能力評価である。職能はその曖昧さが使い勝手の良さでもある一方、評価が抽象的で納得感に欠けることは日本の職能資格等級で述べたとおりである。
行動評価
行動評価は、能力評価が抽象的であるという弊害を克服するために、より具体化された「行動指標」を志向したもの。どんな行動を重視するかでその組織の価値観がわかる。
コンピテンシー
そしてコンピテンシーは、McClellandの1970年代の研究を起源に、欧米で1980年代後半から1990年代初頭にかけて普及した考え方だ。日本では、成果主義の浸透と曖昧さの回避のためのツールとして活用された。
ハイパフォーマーの行動特性について、行動項目と具体的な行動指標を特定しコンピテンシー・ディクショナリーとしてまとめる。より詳細で具体的な方向へのドライバーとなった。
しかし、職種や職務毎に評価項目が整備されるため数が膨大となり、それを抽出しメンテナンスしていくことに労力がかかりすぎること、項目は増加し続け、苦労して作成したコンピテンシーの信頼性が低下するという問題を抱えている。
日本にコンピテンシーを持ち込んだ川上真史の「コンピテンシーの本質~誤解だらけのコンピテンシーを使えるものとするために~」という記事は分かりやすくその論点を説明している。コンピテンシーとはそもそも日本で横行したような行動特性ではなく、下表のような能力であるという主張である。

職能の曖昧さを回避するために、詳細な職務等級や大量のコンピテンシー・ディクショナリーを作成し、具体化することで説明責任を果たそうとしてきた日本企業の歴史が見える。しかし必ずしもうまくいっていない。成果評価が目標管理(MBO)に統一されつつあることと対照的である。
多面観察(360度評価)
少し位置付けが異なるが、多面観察についても触れておきたい。多面観察も多くの場合「行動」を見るものだ。見える視点が異なる上司・部下・同僚など複数の「主観」を集めることで「客観性」を高めることができる手法だ。
しかし一般的には「人材開発」を目的に行い、「評価」に使用して処遇に直結させることは少ない(下表参照)。

評価に使用しないのは、以下の2つの理由から、情報を歪めたりモチベーションを低下させたりするからだ(Jay Conger,Ginka Toegel, London Bussiness School 2002)。
- 自己認知動機:自分の肯定的な部分にだけ目を向け、現状を振り返ろうとしなくなる。
- 戦略的自己提示:自己と他者の評価に食い違いがあると、行動ではなく見方を変えるというテクニックを使う。
行動を「評価」し処遇に繋げるツールとしては適切でないことが分かる。評価には参考情報として反映させる企業が多い。
行動を見る評価手法に決定打はない
これまで見てきたとおり、行動を見る評価に、日本の歴史上、決定打はない。これで測れば間違いない、というメジャーはないのだ。成果とは違って人の主観が問われるからだ。これはつまりマネジメントの腕が問われる、裁量に任されている、ということでもある。
さあ次回は、いよいよテーマ3.評価の最終回「評価の公平感」である。
参考文献:
釘崎広光『トータル人事システムハンドブック』
須田敏子『HRMマスターコース―人事スペシャリスト養成講座』
奥林康司・平野光俊・上林憲雄『入門 人的資源管理』
根本孝・金雅美『人事管理(ヒューマンリソース)―人事制度とキャリア・デザイン (マネジメント基本全集)』

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