効果的な目標と適切なフィードバック
前回は目標管理について論じ、組織における目標とは「自分がやりたいこと」でも「与えられたノルマ」でもなく「握手する」ものだ、と述べた。今回はその「目標」はどんな内容であれば良いかを考えたい。
どんな「目標」が効果的か?
ただ「一所懸命やれ」という目標では個の力にならない。どんな目標であればモチベーションに効果的なのだろうか?行動科学的な研究を大沢武志「心理学的経営―個をあるがままに生かす」は下図のように紹介している。

(余談になるが「心理学的経営―個をあるがままに生かす」は名著だ。人事やマネジメント層は知っておくべきことが、心理学の知見とリクルートの人事役員であった大沢武志の実践から書かれている。残念ながら絶版だが、高価な古書であっても手に入れる価値があると思う。)
やる意義があって、具体的で、自分にもできると思える「背伸びをすれば届きそうな」目標が、良い目標である。
そして何よりも与えられたノルマではなく、自ら「やってみたい」と受容していることが大切だ。
我がアカツキでは、「やんちゃな目標」という言葉が浸透している。自ら楽しんで高い目標を目指す雰囲気があり、私もとても気にいっている。
文化はこういった言葉から作られるのだ。
目標とモチベーション
モチベーション促進のサイクルを東京未来大学角山剛は「目標と報酬のないところにモチベーションは起こらない」という記事の中で下図のように示している。

そして「何らかの「目標」に対して抱くのがモチベーション」「納得のいく目標がなくては、誰しも意欲など湧くはずがないのです」と主張している。
「モチベーション」という言葉は色々な意味で使われるため、議論が混乱することも多い。ただの「ヤル気」とおもっている方もいることだろう。先日、成長IT企業の人事部長たちとディスカッションした時( IT Management Journey vol.4「個人の意欲をどのように高め、組織の力に転換していくか?」)も、モチベーションという言葉の意味を揃えるだけでかなりの時間を必要とした。ここはテーマ4.報酬でさらに考えていきたい。
私はモチベーションとは「これをやってみよう、という思いの強さ」だと捉えている。ベクトルのように、向かうべき方向と、そこに向かう力の両方があってこそのモチベーションである。
だからこそ、リーダーには「こっちへいこうぜ!」と方向を魅力的に「指し示す」ことが求められるのだ。
目標を上司と部下がともに設定する機会は、正に「指し示す」ことで「モチベーション」を上げる、最高にクリエイティブな真実の瞬間なのだ。
フィードバックのポイント
目標が決まったあと、放置されてしまうとその効果は徐々に低減してしまう。中間過程でのフィードバックの効用についての心理学的な研究をまた大沢武志「心理学的経営―個をあるがままに生かす」に教えてもらおう。
- 個人目標へのフィードバックはその時点での進捗が「中程度に遅い者」へ与えると効果的。
- 個人目標へのフィードバックは「早めに与える」ほうが良い。
- 個人目標へのフィードバックは「達成欲求が高い」場合に効果が高い。
- 集団、個人目標へのフィードバックは「少なくとも一方が負」である場合に効果が高い(下図参照)。
- 集団、個人目標へのフィードバックをどちらも行なうと「相乗効果」を発揮する。

守島基博「人材マネジメント入門 日経文庫B76」によるとフィードバックには3つの基本がある。
- 良い結果も悪い結果も伝えること。意欲と学習効果のために必要。
- 理由が分かるように説明すること。特に部下が今後「どうすればよいか」を考えることにつながる理由を伝えられると、評価の効果が上がる。これは上司の力量次第。
- 結果が出たらすぐに伝えること。年に1~2度の評価面談だけでは、上司の目線を伝えるにはまったく不十分。頻繁に、インフォーマルに伝えるのがよい。
そしてフィードバックで最も重要なことは、上司と部下の信頼関係である。「何を伝えるかより、誰が伝えるか」が問われる。
関係性による公平感については、評価の最終回でじっくりと取り上げたい。次回はまず評価者の主観について。

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