プロフェッショナルを生かす人材マネジメント
1.これからの人材マネジメント
前回「目的を持った人が、自らの意志で登りたくなる階段が、等級の理想形」と語ったが、それを実現するにはどうすれば良いだろうか。
企業から個人に視点を移そう。
小野泉・古野庸一「「いい会社」とは何か (講談社現代新書)」によれば、ひとつの会社で昇進を目指したいと思っている人は少ないのだそうだ(下表のリニアーは10%しかいない)。専門家としてのキャリアを歩みたい人が過半数を超えている(下表のエキスパートが52%である)。
そして日本の人口構造から想像すると、中高年になっても管理職にならない・なれない人のほうが圧倒的多数になるのは自明である。
「これまでの管理職への出世を中心としたマネジメントから、主流をプレイヤー、プロフェッショナル、スペシャリストとした人材マネジメントポリシーを再構築していく時期にきている」と小野泉・古野庸一はいう。
管理職ではないプロフェッショナルたちを、企業はこれからどう扱うべきなのか。
2.「プロフェッショナル」とは何か
まず、プロフェッショナルとは何かを考えてみたい。一般的な概念を点検しよう。
プロフェス
- プロフェッショナルの語源は「Profess」、宗教に入信する際の「宣誓」である。つまり宣言してある集団に参加することだ。
プロフェッション(Blau,1999; Kerr et al,,1997)
- 高度の専門知識や技術を持ち、自律的な活動が可能で、職務の重要性を認識している人が従事する特別な「職業」。プロフェッショナルとはプロフェッションのメンバーである。
プロフェッショナル「宣誓」の原点は、紀元前4世紀の「ヒポクラテスの誓い」である(下図参照)。
医師の倫理・任務などについてギリシア神への宣誓文で、患者の生命・健康保護の思想、患者のプライバシー保護、専門家としての尊厳の保持、徒弟制度の維持や職能の維持などが謳われている。
プロになる、とは、その領域への誠実さを宣誓することなのだ。
プロフェッショナリズム(Hall,1968; Miner,1993)
- 技術的側面:素人には真似できない高度な知識・スキルを持つ。
- 管理的側面:自律的に意思決定しプロ間の連携を重視する。組織に縛られず自身の判断に基づいて自律的に行動する。仕事において自由に意思決定をしたいという欲求を持つ。仕事の質は同業者のプロによって評価されるべきという信念を持つ。
- 精神的側面:奉仕に意義を感じ、金銭的価値を超える。他者を助け奉仕したいという欲求、公共の利益に奉仕したいというコミットメント。職務への献身、愛着とアイデンティティを感じ、外的報酬がなくてもその分野で働きたいという献身的姿勢を持つ。
ビジネスプロフェッショナル(大久保幸夫,2006)
- 非常に長期間にわたる教育、鍛錬に基づく専門的な知識や技術を持っている。
- 他の道を捨てて自分の専門性を自分で決める「腹決め」。自ら決断し、もう後戻りはしない、宗旨替えはしないと誓う。
- その仕事に与えられているルール「高い職業倫理」を守る。
まとめると、「高度で専門的な知識・スキル」「自律的・主体的な意思決定と行動」「職務へのコミットメントと高い職業倫理」といった特徴がプロフェッショナルにはあることが読み取れる。
3.企業にできること
では、どうすればそのプロフェショナルを育てることができるのか。企業にできることは何だろう。
日本の終身雇用、職種間の一律ローテーションを前提とした職能資格ベースの育成だけでは、こういったプロフェッショナルは育たないことは確かだと思う。
下手すれば「満遍なく知っている組織内スキル」「自分で判断しない事なかれ主義」「組織の慣例」が育まれるいう逆の結果になってしまうかも知れない。
兆しとして、日本でもITSSなどの統一基準の普及から、IT系の専門職種では職務等級での格付けや育成が容易になっている(自社のみで職務要件定義に苦しまなくて良くなった)ことがあげられる。しかしその反面、職務を明確にすると外部労働市場に見合った給与の提示が必要となるため、他職種とのバランス調整に苦心することにもなっている。
企業内でのプロフェッショナルへの遇し方にはとても興味があるが、まだ試行錯誤中で実践から言えることは少ない(取り組まれている方はぜひ情報交換させて欲しい)。
しかしプロフェッショナルの力を引き出すために企業が外してはいけない原則が、ひとつだけあると私は思っている。
それは彼らを「信じて邪魔しない」ことだ。
4.プロ意識
企業が邪魔をしない、ということは、個人にとってみれば、その分野では上司も口を出せない「自律」した存在でなければならないということだ。言い換えれば「プロ意識」である。
リクルート「Works 69 育て!ビジネス・プロフェッショナル」によるとプロ意識は「自己概念」「他者認知」「専門技能」から構成され、それは予期せぬ経験によって成長する(上図参照)。
そして12名のヒアリングから見えてきたプロフェッショナルのキャリアの段階的特徴と組織環境は上表のとおり。
これを見るとプロフェッショナルを育てるには、適切なタイミングで経験ができる機会を用意することが重要だとわかる。
本質的な仕事に没頭する中で、プロフェショナルは卓越していくのだ。
次回から、テーマ3.評価について。
「プロフェッショナルを生かす人材マネジメントは「信じて邪魔しない」」に17件のコメントがあります
コメントは受け付けていません。