目的を持った人が、自らの意志で登りたくなる階段が、等級の理想形

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等級まとめ

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このテーマ2.等級の最後にまとめとして私見を述べたい。数十社の等級制度をコンサルタントとして組み立て、そして数社の人事として運用してきたが、4つのことが言えると思う。

 

1.多くの日本企業は「過去の宿題」に直面している

高度経済成長期の多くの日本企業がそうだったように、成長中の企業は職能資格にしておけば当面問題は起きないだろう。頑張って成長している社員を高く遇することができるし、次々にポストが変わる組織の柔軟性にも対応できる。

そして、活躍していない社員も処遇を下げないで済むので余計なコミュニケーションコストがかからない。端的に言えば面倒がない

しかし、それは厳しい判断を先送りにしているだけかも知れない。

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放置され苔むした階段

人事制度コンサルをしていて一番多かった依頼は「年令は高く給与も高いが、役職がなく専門性も低い層」への対応だった。年功や年功的運用の職能資格の曖昧さで、滞留させてしまった層だ。彼らをどう扱うか。

今となっては彼らの給与を下げないと(もっと切羽詰まっている場合は離職を促さないと)経営がもたない。何といって説明すれば良いのか

過去の人たちが先送りしてきた宿題に、今の経営と人事が直面させられているのだ。

 

2.「説明がつく」形が求められる

経営と人事には説明責任が求められる。前出のような状況ではそれは辛いものだ。説明することから逃げてしまう経営や人事もいる。コンサルタント(私)を矢面に立たせて経営と人事はまったく表に出ない制度改定プロジェクトなんてこともあった(当然ながらうまく行かなかった)。

説明がつく形を求めると、合理的な職務等級を志向したくなるのは当然だろう。

しかしそこには運用の困難さが付き纏う。詳細な職務要件定義を改訂することは、やってみると心底嫌になること請け合いだ。

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合理的に切り分けた無機質な階段

結果、いくつかの職務を大括り化した「役割」等級を選択する企業が多かった。職務の塊の箱である役割は、枠組みを説明しやすく、箱の中はある程度の曖昧さが残せる。詳細は後述する。

 

3.説明ではなく「指し示す」べきだ

過去の宿題を嫌々こなすのではなく、無理やり説明するのでもなく、どんな思想をもとに人材マネジメントを行うつもりか指し示すべきだ。

人材マネジメントのポリシーを等級に落とし込んだ例をひとつご紹介したい。

リクルートマネジメントソリューションズの「職群職責ランク制度」は当時の社長である釘崎広光さん自らが執筆した『トータル人事システムハンドブック』に詳しい。

この人材マネジメントの壺でも度々引用してきたこの本は、網羅性が高く、ロジックが丁寧で、一つひとつの概念説明の納得感が高い。その反面、正しく伝えようとするあまり難解になっている箇所も多く、分厚く、価格も高く(5万円)、 威圧感ある硬質な一冊である。

いくつかの職務を括って期待役割の「職群」とし、職群の中は発揮された実力によって「職責ランク」を決定する。仕事と人のバランスの取り方、過去の貢献への配慮、評価や処遇への落とし込み方が考え抜かれていて、ロジカルだが有機的でもある。

その思想は「個と組織を生かす」。

チャンドラーを模して「組織は強くなければ生きていけない、優しくなければ生きている資格がない」とハードボイルドに洒落て言っているが、まず事業で勝つための期待役割があり、その後に人を生かすというのが釘崎さんの知恵だ。

釘崎さんはこの本を人材マネジメントの「ベストプラクティス」としたいと述べているが、その言葉に恥じない内容だと思う。少なくとも私はここまで見事に思想を具現化した等級を他に知らない。

 

4.どうありたいかを知るための「軸」が必要

自社の人材マネジメントをどうしたいか、なかなか釘崎さんのようには落とし込めない。それは軸がないからだ。

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Works76号 P5 「12の価値軸」

リクルートのWorks76号「人材マネジメントを視覚化する」という特集は非常に面白い。12の価値軸から企業を分類しマッピングしている(上表)。

この軸から自社は今どこに位置づけられているのかこれからどこに行きたいのかを考えると、多くの示唆が得られる。私のクライアントでもこの軸を元に議論したことがあるが、役員間で目指したい人材マネジメントの方向が全く違うことが明確になり、建設的な議論のたたき台となった。

軸が揃わないと、指し示すどころか議論のスタート地点に立てない。

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どこへ続くかわからない放置されて苔むした階段ではなく、機能的だが無機質でうっかり転ぶと大怪我をしそうな階段でもなく、目的を持った人が自らの意志で登りたくなる、そんな階段が理想の等級制度だと私は考えている。

次回は、プロフェッショナルについて。

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テーマ2.等級