適応性と一貫性
人材マネジメントは、社内外の環境に適応しており、各施策同士が一貫していれば効果が高い。感覚的にはあたりまえのことだが、まずはHRMの理論を確認してみたい。今回も須田敏子『HRMマスターコース―人事スペシャリスト養成講座』に教えていただこう。
外部と内部、2つのフィット
HRMの具体的な理論として、1984年にミシガンモデルが出版された。ミシガンモデルによれば、組織外の環境、経営戦略が異なれば効果的なHRMは異なる。

また、セレクション(採用と選抜)、人材評価、報酬、人材開発の4領域の施策同士が互いにマッチしあうことがパフォーマンス(個人と組織)に影響を与える。

Storey(1994年)は、それらを2つの「フィット」と言っている。経営戦略など組織内外の環境要因とHRMがフィット(外部フィット)して適応していること、個別施策間がフィット(内部フィット)して一貫していることが効果的なのだ。
適応性の形
では社内外環境に適応した(外部フィットした)人材マネジメントとは、実際にはどんな形だろうか?
古野庸一・小野泉『「いい会社」とは何か (講談社現代新書)』では、キヤノン・トヨタ・武田薬品工業など8社を対象として、いい会社『30年以上好業績かつ100年以上長寿企業』の特徴を探っている(下図)。

「いい会社」では、人を尊重し、人の能力を十分に生かそうとしている。自社の理念に共感する人材を採用し、働く人との信頼関係の上で、仕事に向かう姿勢を厳しく問い、組織としてのPDCAを回し続けているのだ。
また、野中郁次郎による『日本の持続的成長企業』の研究では、①実行・変革力、②知の創出力、③ビジョン共有力の3つの組織能力によって、業績が総合的に上昇することが示されている(下図)。
一貫性はミッションから
「人材マネジメント」のテーマ図(下図)は、まさに施策間の関係、内部フィットの関係性を示したものだ。人材マネジメントの各施策を設計し運用していく際には、各テーマから伸びている影響の矢印を考えなければならない。

そのとき、全体を貫くコンセプトが必要となる。前出の『日本の持続的成長企業』によれば、その一貫性を担保するのは、価値基準(下図)だという。軸となる価値基準があれば、仕組みはその運用や施策実行のプロセスにおいて意味づけが自律的になされる。
一貫性を持つためには、整合性だけでなく方向性が必要だ。どこに向けて何のために我々は走っているのか、そのミッションを『指し示す』ことが人材マネジメントの根幹だと私は思っている。
次回は人材マネジメントの主体者、マネジャーについて見ていこう。

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